子、磬を衛に撃つ

子撃磬於衞、有荷蕢而過孔氏之門者、曰、有心哉撃磬乎、既而曰、鄙哉、硜硜乎、莫己知也、斯已而已矣、深則厲、淺則掲、子曰、果哉、末之難矣、

子、磬(けい)を衛(えい)に撃つ。蕢(あじか)を荷ないて孔氏の門を過ぐる者あり。曰わく、心あるかな、磬を撃つこと。既にして曰わく、鄙しきかな、硜硜乎(こうこうこ)たり。己れを知ること莫くんば、斯(こ)れ已まんのみ。深ければ厲し、浅ければ掲す。子の曰わく、果なるかな。難きこと末(な)きなり。

現代語訳

先生が衛にいらした時に磬という楽器を奏でていらした。その時もっこを担いで孔家の門を過ぎる者があった。その者が言った。「この音は天下に道を行おうとする者の音だ。この磬を打つ音は」

しばらくして、その者がまた言った。

「しかし俗だ。世間なみに凝り固まっている。己を知る者がいなければ、誰にも仕えず世を去ればいいことなのに。詩に謂うではないか。『川が深ければ着物を脱ぎ、浅ければ着物をからげる』と。そんなふうに、己を知る者がいないならいないで、うまく立ち回ることもできように。わざわざ仕える君を求めることもなかろう」

先生がおっしゃった。「思い切りのいい言葉だ。しかし、そんなふうに世をはかなんで自分一人が清くあることは、そう難しいことではない。(私は世捨て人になるのではなく、あくまで世と関わり、君に仕え、その上で道を行いたいのだ) 」

語句

■磬 L字型の楽器。 ■衛 国名。 ■蕢(あじか) もっこ。 ■既にして しばらくして。 ■鄙し 俗っぽい。 ■硜硜乎 凝り固まってガチガチである。 ■已まん 誰にも仕えずに世を去る。 ■深ければ厲し、浅ければ掲す 川が深ければ着物を脱ぎ、浅ければ着物をからげる。『詩経』ハイ風の詩の句。 ■果 思い切りがいい。

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現代語訳・朗読:左大臣光永