子、匡に畏る

子畏於匡、曰、文王既没、文不在茲乎、天之將喪斯文也、後死者、不得與於斯文也、天之未喪斯文也、匡人其如予何、

子、匡(きょう)に畏(おそ)る。曰わく、文王既に没したれども、文茲(ここ)に在らずや。天の将(まさ)に斯(こ)の文を喪(ほろ)ぼさんとするや、後死(こうし)の者、斯の文に与かることを得ざるなり。天の未だ斯の文を喪ぼさざるや、匡人(きょうひと)其れ予(わ)れを如何。

現代語訳

先生が匡という土地で危険な目にあわれたことがあった。(かつてこの地で陽虎という将軍が乱暴を働いたことがあったが、先生の容貌が将軍陽虎に似ていたのだ。そのため、軍勢に取り囲まれてしまった)その時先生がおっしゃった。周の文王はすでに亡くなったが、文は私の中に無いだろうか。ある。天が文の道を滅ぼそうとしているなら、私が、文の道を伝えることはできないはずである。(しかし私は事実、文の道を伝えている。これこそ天が文を滅ぼそうとしていない、何よりの証拠である)天がいまだ、文の道を滅ぼそうとしないなら、匡の人間が、私にどんな危害を加えることができるだろう。何もできはしない。

語句

■匡に畏る 孔子がかつて衛から陳へ行く途中で、匡という所に通りかかった。匡ではかつて陽虎という将軍が乱暴を働いたことがあった。孔子は容貌が陽虎に似ていたので陽虎に間違えられ、兵に取り囲まれた。そんな危機に見舞われたが、孔子が堂々としてひるまなかったことを言った章段である。 ■文王 周の文王。殷を倒し周王朝を建てた武王の父。太公望呂尚を軍師として迎えた。儒家は文王・武王父子を「聖王」として古代の理想的な王と見る。 ■文 礼が表に形となって表れたもの。礼学制度の類。 ■茲 ここ。孔子自身をさす。 ■後死の者 孔子自身を指す。文王が死んだ後に孔子は死ぬことになるのだから、後死の者といった。 ■文に与かる 道を伝える。

前の章「子、四を絶つ」|次の章「夫子は聖者か、何ぞ其れ多能なる

現代語訳・朗読:左大臣光永